おいしい水と安全な水
溶解性物質を全く含まない純水は、飲んでも「おいしく」感じません。
昭和59年、厚生省水道環境部は水道水の異臭味や塩素臭等の問題をふまえ、「おいしい水研究会」を発足させました。
この研究会によると、「おいしい水」の要件は、蒸発残留物(ミネラル)、硬度、二酸化炭素、酸素を適度に含有した冷たい水となっています。ミネラルは水中に溶解しているカルシウム、ナトリウム、カリウム、鉄などの総量で、味覚にまろやかさを与え、30〜200mg/Lの濃度範囲がよいとされました。硬度はカルシウムとマグネシウムの総量によって決まり、数値が高い水は硬水、低い水は軟水と呼ばれますが、日本人の場合50mg/L程度の軟水が好まれます。二酸化炭素(遊離炭酸)は沢水や湧き水に多く含有し、水にさわやかさや新鮮味を与え、3〜30mg/Lが望ましい範囲とされています。溶存酸素は水に清涼感を与え、10℃の水に11mg/L溶解することができますが、沸騰させると消失します。水温はおいしい水に最も重要な要素となり、10〜15℃が最も快適な温度とされています。
このような要件を満たした、冷たい地下水や渓流の水はおいしい水ということができますが、地下水の場合はクリーニング工場やハイテク工場の洗浄液などの有機塩素系化合物に汚染されることがあり、また、ゴルフ場や農業で使用される農薬類に汚染される可能性があります。沢水の場合は、クリプトスポリジウム(注1)、レジオネラ菌(注2)、トキソプラズマ(注3)やエキノコックス(注4)などの病原虫や菌に汚染されることがあり、金属鉱床由来の重金属類が含有する可能性もあります。
水道水の場合、浄水場で主に河川水を水源として、さまざまな処理過程を経由して、安全でおいしい水を製造しており、さらに、各家庭に配水する前には塩素滅菌をすることにより安全性を高めています。しかし、水道水中に微量に残った有機化合物と塩素が反応することにより、消毒副生成物と呼ばれるトリハロメタン類やホルムアルデヒドなど発ガン性物質が生成することが知られており、給水管からは鉄の溶出や鉛の溶出を避けることはできません。
当社では、消毒副生成物や農薬類はガスクロマトグラフ質量分析装置やLC/MS/MS高速液体クロマトグラフ質量分析装置、重金属類はICP発光分光分析装置や電気加熱原子吸光分析装置、陽イオンや陰イオン類はイオンクロマトグラフ分析装置などを使用して、水中の溶解成分を分析しています。
注1) | 動物の糞便中に排泄された原虫を人が経口摂取することにより感染し、一過性の下痢と腹痛を発症する。 |
注2) | 自然界に広く分布している菌で、高齢者など抵抗力の低下した人が大量に摂取するとレジオネラ肺炎を発症する。循環式浴槽や加湿器の不適切な管理により近年増加している。 |
注3) | 哺乳類、鳥類に寄生し、人へ感染すると脳炎や脳水腫などを起こす。 |
注4) | キツネやイヌに寄生し、人体に入ると幼虫が諸臓器で発育し、生命にかかわることもある。特に北海道に多い。 |